)” の例文
“かくして火星人らが狼狽なすところを知らざるうちに、飛空機は一刻も休みなく、上昇をつづけつつあり、ついに、大空高く消えせたり……”
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私が一字づゝ文字に突当つてゐるうちに、想念は停滞し、戸惑ひし、とみに生気を失つて、ある時は消えせたりする。
文字と速力と文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「手めえが悪いんだからだぞ。喧嘩なんかしやがつて、てめえのやうな奴は出てせろ、打たれていてえくらゐなら何故なぜ喧嘩なんかしやがるんだ。」
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
そんな想ひは窓先を寄切る白い花片のやうに一瞬の間に消えせて、凄じい車輪の響が、そのまゝ凄じく彼の胸で歓喜の響を挙げてゐるだけだつた。
陽に酔つた風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
指さきでそれを軽くおさへると、それらの小さな虫は、青茶色の斑点をそこにのこして消えせてしまふほどである。
停車場に附属する処の二三の家屋のほか人間に縁ある者は何も無い。長く響いた気笛が森林に反響して脈々として遠く消えせた時、寂然せきぜんとして言ふ可からざるしづけさに此孤島は還つた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
遅咲きの紅梅の花さへもが、いつの間にかすつかり散りせて、あちこちの街角から涌きあがる温泉の煙りが駘蕩として薄紫色の山々を撫でゝゐた。
タンタレスの春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
アロハは突如として消えせてしまったが、世を忍び、地下へくぐったにすぎない。美神アロハは生きている。
安吾巷談:09 田園ハレム (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何となればその姿が消えせたではないか。姿見えざるは之即ち風である乎? 然り、之即ち風である。何となれば姿が見えないではない乎。これ風以外の何物でもあり得ない。風である。
風博士 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私の想念は電光のごとく流れ走っているのに、私の書く文字はたどたどしく遅い。私が一字ずつ文字に突当っているうちに、想念は停滞し、戸惑いし、とみに生気を失って、ある時はせたりする。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)