半輪はんりん)” の例文
屋根船はその間にいつか両国のにぎわいぎ過ぎて川面かわもせのやや薄暗い御蔵おくら水門すいもんそと差掛さしかかっていたのである。燈火の光に代って蒼々あおあおとした夏の夜の空には半輪はんりんの月。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やまも、はてしなき雨夜あめよなかへ、ふとまどけて、ぎんなべかざしたら、きらりと半輪はんりんつきつて二三じやくらすであらう。……実際じつさい、ふと那様そんがしたのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宵の月は半輪はんりんで、えてはいたが、光は薄かった。私達が辿たどって行く道は松かげに成って暗かった。けれども一筋黒く眼にあって、松葉の散り敷いたところは殊に区別することが出来た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
晴れた空には早や秋の気が十分に満渡みちわたっているせいか銀河を始め諸有あらゆる星の光は落ちかかる半輪はんりんの月よりもかえってあかるく、石燈籠いしどうろうの火の消残る小庭こにわのすみずみまでくまなく照しているように思われた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)