切歯はがみ)” の例文
旧字:切齒
それからのちの私たち二人は、肉体からだ霊魂たましいも、ホントウの幽暗くらやみい出されて、夜となく、昼となく哀哭かなしみ、切歯はがみしなければならなくなりました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たとえ中途で取殺されるまでも、おまいりをせずにくものかと、切歯はがみをして、下じめをしっかりとしめ直し、雪駄せったを脱いですたすたと登り掛けた。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰もかゝる稼業を好んでするものはないに、と気がきましたから段々様子を探って見ると、伊之吉という情夫のあるので、海上さんも切歯はがみをなされ
饑饉ききんがあるの、地震が起るの、星は空よりち、月は光を放たず、地に満つ人の死骸しがいのまわりに、それをついばむわしが集るの、人はそのとき哀哭なげき切歯はがみすることがあろうだの、実に
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
「思へば憎き彼の聴水、重ねて見当らばただ一噬みと、朝夕あけくれ心をばれども、彼も用心して更に里方へ出でざれば、意恨うらみを返す手掛りなく、無念に得堪えず候」ト、いひおわりて切歯はがみをすれば
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さるを今の作者の無智文盲とて古人の出放題に誤られ、痔持の療治をするように矢鱈無性に勧懲々々というは何事ぞと、近頃二三の学者先生切歯はがみをしてもどかしがられたるは御尤千万とおぼゆ。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
遊佐はひそか切歯はがみをなしてその横顔を睨付ねめつけたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
乗り合いは切歯はがみをしつつ見送りたりしに、車は遠く一団の砂煙すなけぶりつつまれて、ついに眼界のほかに失われき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれだから母親おッかさんは本当にしないのだと、隣近所では切歯はがみをしてもどかしがった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小宮山は切歯はがみをなして、我赤樫あかがしを割って八角に削りなし、鉄の輪十六をめたる棒を携え、彦四郎定宗ひこしろうさだむねの刀を帯びず、三池の伝太光世みつよ差添さしぞえ前半まえはん手挟たばさまずといえども、男子だ、しかも江戸ッ児だ
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柔順すなおに抱かれて寝る気は無いか。と嘲弄ちょうろうされて切歯はがみをなし
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
切歯はがみをなしていきどほる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)