八犬伝はっけんでん)” の例文
中学時代の初期には「椿説弓張月ちんせつゆみはりづき」や「八犬伝はっけんでん」などを読んだ。田舎いなか親戚しんせきへ泊まっている間に「梅暦うめごよみ」をところどころ拾い読みした記憶がある。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「やッぱり学者なんでしょうね、その男は。曲亭馬琴きょくていばきんとどっちでしょう。私ゃ馬琴の『八犬伝はっけんでん』も持っているんだが」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬琴の作るところ、長篇四五種、八犬伝はっけんでんの雄大、弓張月ゆみはりづきの壮快、皆江湖こうこ嘖々さくさくとして称するところなるが、八犬伝弓張月に比してまさるあるも劣らざるものを侠客伝きょうかくでんす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この曲玉は馬琴ばきんが、八犬伝はっけんでんの中で、八百比丘尼妙椿やおびくにみょうちんを出すのに借用した。が、垂仁朝すいにんちょうの貉は、ただ肚裡とり明珠めいしゆを蔵しただけで、後世の貉の如く変化へんげ自在をきわめた訳ではない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
始めて六尺横町ろくしゃくよこちょうの貸本屋から昔のままなる木版刷もくはんずりの『八犬伝はっけんでん』を借りて読んだ当時、子供心の私には何ともいえない神秘の趣を示した氷川ひかわの流れと大塚の森も取払われるに間もあるまい。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いったい自分はそのころから陰気なたちで、こんな騒ぎがおもしろくないから、いつものようによいのうちいいかげんごちそうを食ってしまうと奥の蔵の間へ行って戸棚とだなから八犬伝はっけんでん
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
正直ですら払底ふっていな世にそれ以上を予期するのは、馬琴ばきんの小説から志乃しの小文吾こぶんごが抜けだして、向う三軒両隣へ八犬伝はっけんでんが引き越した時でなくては、あてにならない無理な注文である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)