兄様にいさん)” の例文
旧字:兄樣
『ハ、何にも……然う/\、先刻さつき静子さんがお出になつて、アノ、兄様にいさんもお帰省かへりになつたから先生に遊びに被来いらしつて下さる様にツて。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これおちやう母様おつかさんのいふ事も兄様にいさんのおつしやる事もお前は合点がてんかないかい、狂気きちがひやうな娘を持つたわたしなんといふ因果であらうね。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「以前は六七杯もやつたつけが、今では三杯とめてるよ。」徳蔵氏は貴族院議員の兄様にいさんらしく、精々上品な口元をして言つた。
雪子や何も余計な事を考へては成りませぬよ、それがお前の病気なのだから、学校も花もありはしない、兄様にいさんも此処にお出でなさつてはゐないのに
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あの××県のあなたの兄様にいさんこしらへておいでになる女学校を、神童時代の次の十八九のあなたが教えておいでになる時、其処そこの舎監で、軍人の未亡人の切下げ髪の人とかが
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「昨日お前が帰るちふ電報が来たら、お前、大変喜んでのう、『お、嬉しやなア、兄様にいさんに会はずに死ぬかと思うたら、そつでも遇はれるかなあ、』つて嬉しがつたわの。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
どうして兄様にいさん、十一月でさえ一月の炭の代がお米の代よりか余程よっぽど上なんですもの。これから十二、一、二とず三月が炭のさかりですから倹約出来るだけ仕ないと大変ですよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
実は兄様にいさん済まないが是々と云うから、なぜ早く云わんのだ、年頃で当然あたりまえの事だ、と云って残らず打明けて己に話した、其の時はおせなが一緒に行ってう/\と残らず話した
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
の辺の事を、う変つたか詳しく小川さんの兄様にいさんに訊いて見ようか知ら!』とも考へてみた。そして、「訊いた所で仕方がない!」と思返した。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
癒りまする。今日癒つてくれ。今日癒りまする、癒つて兄様にいさんのおはかまを仕立て上げまする、おめしも縫ふて上げまする。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かあさんなんか厭だよと口癖に云つて居ました佐保子さほこだけを王様のお姫様のやうに大事になすつて、今に佐保子さほこ兄様にいさん達を踏みにじらせますとばかり叔母さんは云つておいでになつたさうです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
番町の旦那様おいでと聞くより雪や兄様にいさんがお見舞に来て下されたと言へど、顔を横にして振向ふともせぬ無礼を、常ならば怒りもすべき事なれど、ああ、捨てて置いて下さい
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『それで、兄様にいさん奈何どう思つて?』と、静子は、並んで歩いてゐる信吾の横顔をじつと見つめた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)