側女そばめ)” の例文
同じ縁側の遥か下手に平伏している大目付役、尾藤内記びとうないき胡麻塩ごましお頭を睨み付けていた。側女そばめを連れて散歩に出かけるところらしかった。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おおやけのお役目がせわしいなどとよくいわれたものです。——あなたは、側女そばめの山吹がいなくなったので、それで狼狽うろたえているのでしょう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有馬の美女を側女そばめにしようとしたが、いづれも切支丹で側女になる者がなかつたので、美女狩出しの役目を引受けた施薬院全宗が腹を立て
その時代の風潮としては、側女そばめとか庶子などに道徳的な責任を感じなくても異例ではなかった、客観的にみれば余りに多く有触れたことであった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どんな美形連びけいれんが、こがれ、あこがれて近よりたがっても、お前さんにはかなわないのだからね。何しろ、公方くぼうさまの、お側女そばめなんだ。大した御身分。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なれども只今申し上げましたのはいずれもお側女そばめの方々ばかり。御台様みだいさまと申されますのは、前大納言のおんむすめ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あの側女そばめの鳰鳥はじめ多くのお女中や殿方が、ズラリと居並んだ酒宴の席で、たった今たしかに申されました」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
出羽守の側女そばめに、押しこめ同様になっているはずの姉の所在が解ったと聞いて、喜んだのも束の間、気が狂っていると知って、大次郎の悲痛と落胆は大きかった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
予には比企ひきの判官能員よしかずの娘若狹といへる側女そばめありしが、能員ほろびしそのみぎりに、不憫ふびんや若狹も世を去つた。今より後はそちが二代の側女、名もそのまゝに若狹と云へ。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
この通りまだ三十になったばかり、妻も側女そばめもないひとり身じゃ。そちさえ色よい返事致さば、どんなにでも可愛がってつかわすぞ。いいや、そちの望みなら何でもきき届けて進ぜるぞ。
大目付と淵老人が平伏したに連れて、お秀の方と側女そばめまでが一斉に頭を下げた。与一に対する満腔の同情がそうさせたのであろう。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、華やかなお側女そばめ様の生活にも、人知れない苦労があるごとく、今のお綱の腹の中も、なかなかのんきな置炬燵ではない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳰鳥におどりなどと云う怪しい側女そばめうつつを抜かしたそのあげくに執事の筆頭の花村様を閉門同様に退けて置いて、今度の伊那家との合戦にも指一本差させようともせず
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ところで、ものは相談じゃが、どうだな、おさよどの、娘御を生涯おれの側女そばめにくれる気はないかな」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
近代では徳川家康の侍女で朝鮮貴族出身のジュリヤおたアという切支丹キリシタン信徒の女性が家康の側女そばめになることを拒否して大島へ流され、これも島民に影響を残している。
予には比企ひき判官はんがん能員よしかずの娘若狭わかさといえる側女そばめありしが、能員ほろびしそのみぎりに、不憫ふびんや若狭も世を去った。今より後はそちが二代の側女、名もそのままに若狭と言え。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのとき岡野が妻のことを話しかけ、へんに皮肉な調子で、自分がいい側女そばめを捜そうかと云った。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その下に、女たちや、幼子おさなごの悲鳴が聞えた。年景の側女そばめだの、家族たちのいる棟へも、とうに火は移っていたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「イヤ、さような儀ではない。いたって野育ちの女芸人、余にチト考えがあって、かようにとりこにいたしておくのじゃ。側女そばめなどでは断じてない。安心せい、安心せい」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もちろん俗説ではあるが、家系を大切にする武家ではかなり重くみられていたことで、そういう場合には離別をしないまでも、側女そばめを置くことは殆んど通例になっていた。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
淫酒をもってたぶらかす鳰鳥におどりと申す殿の側女そばめを殿のもとから遠避けようと、血気に任せてご酒宴席へ乱入致そうといたしたため、父の勘気を受けましたまで、他に仔細はございませぬ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「御意に御座りまする。祖父の昌秋と二人の側女そばめの首級を三個、つなぎ合わせて、裸馬の首へ投げ懸けて、先刻手前役宅へ駈け込みまして、祖父の罪をお許し下されいと申入れまして御座りまする」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
逃げまどってくる者は、みな召使の下婢はした側女そばめたちばかりで、子を抱いているはずの年景の妻は見あたらなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜になって、吉良がしんにつく世話をしてしまうと、女は、さっさと自分の部屋へ退って行った。側女そばめとして来ているのに、そうすることが当然であるような、女の態度だった。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は二十九歳になるがまだ妻をめとらない。両親は亡く、古くからいる家扶かふ下僕げぼくらとくらしながら、いつとなく側女そばめのような者を引入れ、子供まであるという噂も伝わっていた。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朱実あけみも今は、彼に奉じる特殊な側女そばめとなっているし——もっと驚くべきことには、武蔵が、手しおにかけて数年も愛育して来た少年城太郎までが、いつのまにか
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これまで公務に縛られて来たんだ、ようやく隠退してこれから余生をたのしむときじゃないか、おれなどはもし女房が死んでくれたら、すぐさま若い側女そばめを置くつもりでいるぞ」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつかも、八弥様には、話したことじゃが、黄門様のお側女そばめの血すじの者が、この世の何処かに、四人はたしかにいるはずだが、もう幾年となく尋ねても、それが分らぬ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はおみやが渡辺九郎左衛門の妻でなく、側女そばめだということを知っていた。
袁紹えんしょうの未亡人りゅう氏は、まだ良人のも発しないうちに、日頃の嫉妬を、この時にあらわして、袁紹が生前に寵愛していた五人の側女そばめを、武士にいいつけて、後園に追いだし
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなことはない、あれは側女そばめなどに嫉妬するような、ふたしなみな女ではない、おれは娘時代のあれを知っているが、おうようでのんびりした、とうてい嫉妬などをするような性質ではなかった」
それによると、室殿は、いまでこそ荒木村重のお側女そばめとして、この西の丸に、思いのままな綺羅きらかしずきに囲まれているが、決して、名門の息女や、名ある者のむすめでないことが分った。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
側女そばめのみやという者です」