例之たとへ)” の例文
どうかすると外の人の前で、此詞を言ひ出す事がある。例之たとへば公爵に向いてそんな事を言ふ。公爵は軽いあざけりの表情を以て、唇に皺を寄せる。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
例之たとへば弟汝楩の子万年まんねんの女類は夭折の年月或は契合すべく、更に下つて万年の子くわん三の女つうとなると、明に未生みしやうの人物となる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
即ち何事に依らず完全に為遂しとげて、衆人の賞讃と驚歎とを博せようとするのである。例之たとへば学科は人に褒められ、模範とせられるまで勉強する。
若しわたしがさうしようと思つたら、わたしは疑も無くその夢を今でも見続けてゐて、例之たとへば話をしてゐるあなたなんぞを、却つて幻だと思ふでせう。
例之たとへばパウロウスク又はバルゴロヲ等に飼養し、若くはモスクワのプレツスネンスキイ湖に飼養するも可ならん。
この動力(源因)はすなはち術語の罪過にして、世俗の所謂過失及び刑法の所謂犯罪等と混同すべからず。例之たとへこゝに曲中の人物が数奇不過不幸惨憺さんたんの境界に終ることありと仮定せよ。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
はゞかりあることには侍れど、おん身にも總て過失なしとはいひ難くや侍らん。例之たとへばおん身は、いかなれば一時怒に任せて、彼美しき詩をき給ひし。われ。そは世に殘すべき價なければなり。
例之たとへばわたしなんぞに、どうしてそんな事を考へなくてはならない義務があるのですか」と、ソロドフニコフは右の膝を左の膝の上にかさねて、卓の上に肘を撞きながら、嘲弄てうらうする調子で云つた。
例之たとへば「猶さら此せつは主人(の)すきなすゐせんの花どもさき、一しほ/\おもひ出し候て、いく度か/\かなしみ候」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
例之たとへばセルギウスには最早一切身体しんたいの労働をさせない。日常の暮しにいるだけの物はこと/″\く給与してくれる。セルギウスは只客を祝福して遣るだけで好い事になつてゐる。
例之たとへば人間なんぞはそんな風に出来てはゐない。人間の頭は、空虚なれば空虚なだけ、物をその中へ入れようと云ふ要求を感じない。併しそんなのは破格と見做みなさなくてはならないのだね。
例之たとへば「つくゑ」と云ふ詞を見ましても、此wの子音に當る「う」と云ふ音、是が響かないのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
例之たとへば蘭軒は酒を飲むに、しば/\青魚鮞かずのこを以て下物げぶつとした。そして青魚鮞を洗ふには、必ず榛軒の手を煩した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それからそれにぎまして、「文」「錢」の外に、あゝ云ふ類の之に準ずべきものがあります。例之たとへば「天地」と云ふことは「あめつち」よりか「てんち」の方が行はれて居る。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)