今更いまさ)” の例文
とても彼の手に合わないことを悟ると、同時に、彼自身の十二歳の娘のことなども思い出されて、今更いまさらながら、この世が淋しくなるのであった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つひ失望しつばう落膽らくたんし、今更いまさ世間せけんへも面目めんもくなく、はておもせまつておほいに決心けつしんしてたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
英公使は威嚇おどぬいて、その上に仏蘭西フランスのミニストルなどが横合から出て威張るなんと云うのは、丸で狂気の沙汰でけが分らない。ソレで事が済んだのは今更いまさら何とも評論のしようがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうしてそのドイツとイタリヤとは既にオットー一世が平定乃至ないしは攻略したものであったので、何も羅馬ローマ法王から今更いまさら頂戴する必要はないのであるが、それをれてやるような形式にして
ローマ法王と外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今更いまさら、時世が変わったことを楯に、贅沢は出来ぬの、昔を今になすよしもがなとか、合宿にならなかったのが倖せだったなぞと、当り前の様に言うのは、まことに恩愛を忘れたものの言い方だ。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
娘はふと何気なく父の顔を目に入れると、そこにはゆるんだ村老の落ち窪んだ力のない眼の光があった。娘は父親がともすると頼りない足もとで、よろよろ坂を下りるのを今更いまさらのように見戍った。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「こんな、つまらない町へ、毎晩散歩に出掛けてくる青年少女諸君もあるんだなあ」と今更いまさら不思議に感じながら、併し、猟奇者青木愛之助は
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本当のことを本当らしく書くことさえ、どんなに難しいかということを、今更いまさらの様に感じたのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そんなことを云ったって、もう断って了ったものを、今更いまさら仕様がないじゃありませんか」
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それにしても、僕は今更いまさら感心したね。なんてよく似ているのだろう。君とあの男がさ。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたは随分ずいぶんひどい方です。お酒の上とは云えあんな乱暴な人とは知りませんでした。しかし今更いまさら云っても仕様しようがありません。私はあれは夢であったと思って忘れます。あなたも忘れて下さい。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)