九年母くねんぼ)” の例文
向ふの膝のすべてが——それをつくつてゐる筋肉と関節とが、九年母くねんぼの実とたねとを舌の先にさぐるやうに、一つ一つ私には感じられた。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
明治二十五年の春、私は赤間関あかまがせき(今の下関)文関尋常小学校に入学した。たしか二年の修身の教科書に「九年母くねんぼ」という話が載っていた。
九年母 (新字新仮名) / 青木正児(著)
西鶴の『胸算用むねさんよう』に橙のはずれ年があって、一つ四、五分ずつの売買であったため、九年母くねんぼを代用品にしてらちを明けた、という話が出ている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
波止場には九年母くねんぼの店をひろげて売っているばあさんがある。そのかたわらに背中の子供をおろして休んでいる女がある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
体裁ばかりで皮が厚く水気のない九年母くねんぼ、これは芝居の水菓子に幅を利かしたが誰しも閉口、その外、すもも、あんず、はたんきょうなど士君子は顧みない。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
正月を前にして、京から、南洋の九年母くねんぼというものを献上した者があって、その入荷が、浜松の城へ着いた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が生れた鹿児島のヒラの馬場の屋敷というのは、明治十年鹿児島にわたって十七年間も住っていた父母が、自ら設計して建てた家なので、九年母くねんぼ朱欒ザボン、枇杷
朱欒の花のさく頃 (新字新仮名) / 杉田久女(著)
すると新五郎は寝ずにお園の看病をいたします。薬を取りに行ったついでに氷砂糖を買って来たり、葛湯くずゆをしてくれたり、蜜柑みかんを買って来る、九年母くねんぼを買って来たりしてやります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
十一月二十七日と日づけ御座候御手紙ならびに九年母くねんぼ、みかん、かつおぶしともに昨晩相とどき、かこい内はともしくらく候えども、大がい相わかり候〔獄中の情景観るが如し〕まま
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
欷歔ききよしつつ九年母くねんぼむきぬ。ゆかりき。あはれそれより
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
姉のおくめは十二歳、弟の宗太は十歳にもなる。この姉弟きょうだいの子供はまた、おまんに連れられて、隣家の伏見屋から贈られた大きな九年母くねんぼ林檎りんごの花をそこへ持って来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
九年母くねんぼ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手土産がわりに町で買い求めた九年母くねんぼを取り出し、未亡人から盆を借りうけて、いきなりツカツカと座をたちながら、そこに見える仏壇の前へ訪問のしるしを供えたというものだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)