深山みやま美玉都門びぎょくともんいってより三千の碔砆ぶふに顔色なからしめたる評判嘖々さくさくたりし当代の佳人岩沼令嬢には幾多の公子豪商熱血を頭脳にちょうしてその一顰一笑いっぴんいっしょう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
船の中にあっては船頭の一顰一笑いっぴんいっしょうも、乗合の人のすべての心を支配することは、いつも変りがありません。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半月旗のひるがえるところ、土耳古トルコ帝の一顰一笑いっぴんいっしょうに畏怖した欧羅巴ヨーロッパ諸国の前に、彼もまた滅亡の悲運を見るに至った。何故にしかりしや。これが興味ある問題なのである。
文明史の教訓 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
漢語でいうと彼女の一顰一笑いっぴんいっしょうが津田にはことごとく問題になった。この際の彼にはことにそうであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一顰一笑いっぴんいっしょうによって愛嬌あいきょうをまき、米を得んとする料理研究家がテレビに現われて、一途いちずに料理を低下させ、無駄むだな浪費を自慢して、低級に生きぬかんとする風潮がつのりつつある。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
いかに高く生き輝かんかの相貌そうぼうであって、一顰一笑いっぴんいっしょう悉く神変の意をふくむもの。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中には真実めし艶書えんしょを贈りてき返事をと促すもあり、また「君徐世賓じょせいひんたらばわれ奈翁ナポレオンたらん」などと遠廻しにふうするもありて、諸役人皆しょう一顰一笑いっぴんいっしょううかがえるの観ありしも可笑おかしからずや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そう気が付いて見ると、青年の母に対するひとみが、日一日輝きを増して来るのが、美奈子にもありありとわかった。母の一顰一笑いっぴんいっしょうに、青年がよろこんだり悲しんだりすることが、美奈子にもありありと判った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ただ心が陽気になれないだけなのですが、夫の方では最愛の細君の一顰一笑いっぴんいっしょうも千金より重い訳ですから、捨ておかれんと云うので慰藉いしゃかたがた以太利イタリーへ旅行に出かけます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)