野萩のはぎ
出かけるはずの時間になったが、安は来ない。離屋になった奥の居間へ行ってみると、竹の葉影のゆらぐ半月窓のそばに二月堂が出ているだけで、あるじのすがたはなかった。 窓ぎわに坐って待っているうちに、六十一になる安が、ひとり息子の伊作の顔を見たさに …