それにはかたわらに伺候していた老中板倉伊賀守いたくらいがのかみも返す言葉がなくて、その懐剣をしりぞけてしまったという。その時、将軍はすでに朝服を着けていた。参内するばかりにしたくができた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)