わたくしは稲荷橋に来て、その欄干に身をよせると、おのづからむかし深川へ通つた猪牙舟ちよきぶねを想像し、つゞいて為永春水の小説春暁八幡佳年しゆんげうはちまんがねの一節を憶ひだすのである。
町中の月 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)