毎時いつ)” の例文
それでも少しは、何かせねばならぬこともあって、二三日を置いてまた行った。私は電車に乗っている間が毎時いつも待遠しかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お前は例の如く努力を始めた。お前の努力から受ける感じというのは、柄にもない飛び上りな行いをした後に毎時いつでも残される苦しい後味なのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
花桐は心にもないことを言うことで、一層混乱した悲しいものに邂逅かいこうした。それは毎時いつも彼女の胸をとおり過ぎる不可思議な或るいじらしい反抗であった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこで毎時いつでも我輩と衝突が起る。どうせ彼様あんな無学な女は子供の教育なんか出来よう筈も無い。実際、我輩の家庭で衝突の起因おこりと言へば必ず子供のことさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おとらは作の隠れて寝ている物置のような汚いその部屋を覗込のぞきこみながら毎時いつものお定例きまりを言って呶鳴どなった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
米国の未開地の中央などに行くと、野生の牛がいるという。その群を見るに毎時いつも戦々兢々としている。無神経と称せらるる牛でありながら僅の声にもおののいている。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分は彼等をその下宿に訪問すると、毎時いつもかう云ふ久米の夢を思ひ出したものだつた。が、松岡はその時分から、余り職工服とは縁のない思想なり心もちなりを持つてゐるらしかつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
毎時いつでもおっかさんが私を抱いて寝ていて、おとっさんが金があれば江戸のお屋敷へ帰れると云うから、あゝ金が欲しいと思っても仕様がねえから、坊が今に大きくなれば稼いで上げべえと思っていたが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
精神的にも肉体的にも弱点を持った人間を毎時いつもこうして襲うだろうと思われる蚊のむれは、私の足や手や顔や、そういう着物から外部へ出た肉体を目がけて
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
何か穢多に関したことになると、毎時いつもそれを避けるやうにするのが是男の癖である。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
だから出席簿をつけてしまふと、早速毎時いつもの通り講義にとりかかつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
毎時いつでもお前には陰険なわけへだてが附きまつわっているから。お前は憎まれていい。はずかしめられていい。悪魔視されていい。然しお前の心の隅の人知れぬ苦痛をそっとながめてやる人はないのか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お宮が出て来ると、毎時いつも、眼をつぶったような静かな、優しい声で
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
父は私の汲んで来た一番水を毎時いつもよく洗われた真鍮しんちゅうの壺に納めて、本堂へ供えた。それを日の入りには川へ流すのが例になっていた。あとの水は、茶の釜にうつした。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
所で「きりしとほろ」は旅人を肩へゆり上げると、毎時いつみぎはの柳を根こぎにしたしたたかな杖をつき立てながら、逆巻く流れをことともせず、ざんざざんざと水を分けて、難なく向うの岸へ渡いた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あなた方がそんなお考えなら勿論もちろんやらない方がいいんです。あとあとのことを考えると良くないから。」医者の樋口さんも毎時いつものように強情な私を知っているため賛成したのである。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
……というのは、わたしは晩ねむられないときに、毎時いつもブランコの上で、さか立ちをしたりともえのように舞ったり、不意に身がるに飛び下りたりするくせを持っていて、そのうちに睡れるのだ。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)