殷鑑いんかん)” の例文
と笑うて、技師はこれを機会きっかけに、殷鑑いんかん遠からず、と少しくすくんで、浮足の靴ポカポカ、ばらばらと乱れた露店の暗い方を。……
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父母いましても、いまさなくても、幼き身で無断に遠く遊んで悪いことは、昨今の自分の身がかえって殷鑑いんかんだと思いました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
万一それから刃傷沙汰にんじょうざたにでもなった日には、板倉家七千石は、そのまま「お取りつぶし」になってしまう。殷鑑いんかんは遠からず、堀田稲葉ほったいなば喧嘩けんかにあるではないか。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同じアングロサクソン民族であっても、度を超えた干渉はついに米国を独立せしめた殷鑑いんかんがあるでないか。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼は愛親覚羅あいしんかくら氏が絶漠ぜつばくより起り四百余州を席捲せっけんするの大機を洞観し、国防的経綸けいりんを画せり。彼は思えり、北狄ほくてき、支那を呑む、いて我くにに及ぶ、殷鑑いんかん蒙古にありと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これを要するに殷鑑いんかん遠からず、我らの近くに在り。我々はこれらの例に徴して、切に憲政の成功にはいかに国民の教養が先決問題として肝要であるかを知らねばならぬ。
かつてわが師、吉井勇はこの詠あったが、その時の私も殷鑑いんかん遠からず、今目先まなさきにある日本太郎の姿こそ、やがてくるべき日の自分自身であるかのごとくしきりに考えられてならなかった。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
長崎屋の殷鑑いんかんは、見る間にそなたの身の上であろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なにも徳川が亡びたとて、日本の国が亡びるという意味にはならないが、それでも、大坂落城の時の殷鑑いんかんはどうだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
釈迦しゃかの子孫は如何いかん、孔子の子孫は如何、印度インドも、支那も、その国勢の凌夷りょういの何に帰因するを思うて、これを殷鑑いんかんとせなければならぬ。更にマホメットの子孫は如何。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
殷鑑いんかん遠からず、一歩をあやまたば我はた無情の人にならんと、泥除どろよけを叩きて口早に
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)