鳴戸なると)” の例文
小栗判官おぐりはんかん頼光らいこう大江山おおえやま鬼退治、阿波あわ鳴戸なると三荘太夫さんしょうだゆう鋸引のこぎりびき、そういったようなものの陰惨にグロテスクな映画がおびえた空想のやみに浮き上がり
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鳴戸なるとを抜けるたいの骨は潮にまれて年々としどしに硬くなる。荒海の下は地獄へ底抜けの、行くも帰るも徒事いたずらごとでは通れない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから船長おやじ一流の冒険だが六時間の航程コース節約つめるために、鳴戸なるとの瀬戸の渦巻を七千トンの巨体で一気に突切って
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この前笑覧会というものがあって阿波あわ鳴戸なるとのお弓の涙だなんてびんに水を入れたものを見せるなどは気がかない。もっと、面白いことをして見せるのです……
もと蜂須賀はちすか氏の城下町でありました。あるいは「阿波あわ鳴戸なると」で人々はもっと記憶するかも知れません。または撫養むやの有名な凧上たこあげでこの国を想い起す人もありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
九月は農家の厄月やくづき、二百十日、二百二十日を眼の前に控えて、朔日ついたちには風祭をする。麦桑にひょうを気づかった農家は、稲に風を気づかわねばならぬ。九月は農家の鳴戸なるとの瀬戸だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
部分は部分において一になり、全体は全体において一とならんとする大渦小渦鳴戸なるとのそれもただならぬ波瀾の最中さなかに我らは立っているのである。この大回転大軋轢あつれきは無際限であろうか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)