えい)” の例文
所が、海盤車ひとでと思った相手は、意外なことにしびえいであった。一掴みと躍りかかった大蛸はたちまち手足を烈しく刺されて退却せねばならなかった。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
泥酔して上機嫌になると石黒大尉は異様な発揚状態になり、火のついた葉巻をところかまわず裸身へおしつけるのと、えいの皮で生皮を剥がれることだった。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小鮫の類を海底の猛獣に例えるなら、そのガラスみちに現れる魚類としては、えいなどは、水に棲む猛鳥にも比すべく、穴子あなごうつぼの類は毒蛇と見ることが出来ましょう。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なれども、僧都が身は、こうした墨染の暗夜やみこそけれ、なまじ緋の法衣ころもなどまとおうなら、ずぶぬれ提灯ちょうちんじゃ、戸惑とまどいをしたえいうおじゃなどと申そう。おしも石も利く事ではない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と石黒が立ってきて、見ただけでも貧血を起しそうになるえいの皮の手袋で、会釈もなく頬の皮膚を剥がれた。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのおおきさ、大洋の只中ただなかに計り知れぬが、巨大なるえいの浮いたので、近々とあざけるような黄色な目、二丈にも余る青い口で、ニヤリとしてやがて沈んだ。海の魔宮の侍女であろう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お婆さん、ちょっとそのえいの針で口のはた縫わっしゃれ、声を立てると悪いわや。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えいは一噸半から二噸半、広さは半町平方くらいのが普通にいて、それが海の上に浮きあがると、ラジャーの邸の庭よりまだ広く、見渡すかぎり、海がいちめんに赤紫に見えるほどです。
手紙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いんにゃの、恐しゅう歯がうずいて、きりきりのみえぐるようじゃ、と苦しむ者があるによって、わしがまじのうて進じょうと、浜へえいの針掘りに出たらばよ、猟師どもの風説うわさを聞かっしゃれ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪物ばけものに負けない禁厭まじないだ、とえいの針を顱鉄はちがねがわりに、手拭てぬぐいに畳込んで、うしろ顱巻はちまきなんぞして、非常ないきおいだったんですが、猪口ちょこかけの踏抜きで、いたみひどい、おたたりだ、と人におぶさって帰りました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おう、いともの、お婆さん、主、そのえいの針を落さっしゃるな。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)