顔容かんばせ)” の例文
旧字:顏容
道ばたの朽木くちき柳に腰をかけ、一行が近づいて来ると、俄に、脱いでいた市女笠いちめがさをかぶッて、その顔容かんばせを隠していた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その渦まく煙りのなかに浮き出している円満具足ぐそくのおん顔容かんばせは、やはり玉藻の笑顔であった。阿闍梨は数珠を投げすてて跳り上がりたいほどにいらいらしてきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
嫁の座に直った時、支配人の令嬢妙子さんは、姫御前のあられもない、極めて大きな嚔を一つして、唯さえ心恥かしい花の顔容かんばせを赤らめた。しかしその席に列していた父親は
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一喝に突ッ刎ねたのはまだいいが、例の杖がそれと共に、御方の玉の顔容かんばせへピュッと唸って行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの顔容かんばせあって、おめおめ生き返ってきたか。手討ちにして、衆人の見せしめにせん」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれっ。汝のうしろには、遠く蜀の軍勢が見えるではないか。あざむいて、門を開かせ、蜀軍をひき入れん心であろう。——匹夫ひっぷめ、裏切者め、なんの顔容かんばせあって、これへ来たか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何の顔容かんばせあって信長にまみえんや——という面目もない立場になってしまう。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)