ゑくぼ)” の例文
黒い、つやつやした歯が、ちらりと唇を洩れたかと思ふと、右の頬にあさくゑくぼが出来る。唇には紅がぬつてあるらしい。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから此上もなく光沢つやのある真珠の歯が、紅い微笑ほゝゑみの中にきらめいて、唇のゆがむ毎に、小さなゑくぼが、繻子のやうな薔薇色のうつくしい頬に現れる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
『まアそないにおつしやらんと、こんなとこへでも、これを御縁ごえんにまたお越しなはつとくれやす。』と、女房にようばうは口元にゑくぼこしらへて、青い切符と釣錢の銅貨とを持つて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
刺罌粟とげけし、すきな手のかふゑくぼ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
栗梅くりうめの小さな紋附を着た太郎は、突然かう云ひ出した。考へようとする努力と、笑ひたいのをこらへようとする努力とで、ゑくぼが何度も消えたり出来たりする。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)