零余子むかご)” の例文
旧字:零餘子
野兎のうさぎ※麻いちびの茂みの中で、昼にねらわれた青鷹あおたかの夢を見た。そうして、ねると※麻の幹に突きあたりながら、零余子むかご葉叢はむらの中にんだ。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
風の荒かった冬のあいだに北側の屋根ひさしは落ちかかり、壁の穴に零余子むかごつるはこぞのままの枯れ葉をつけて、莢豆えんどうさやのように干からびて鳴っていた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
畑で零余子むかごを採っていると突然大きな芋虫が目について頭から爪先つまさきまでしびれ上がったといったような幼時の経験の印象が前後関係とは切り離されてはっきり残っているくらいである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
零余子むかごなどを取りに参ります処で、知っておりますんでございますが、そんなうちはあるはずはございません、破家あばらやが一軒、それも茫然ぼんやりして風が吹けば消えそうな、そこが住居すまいなんでございましょう。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はその頃盛んに山に草採りに行ったが、かす谷という所で面白い繖形さんけい科の植物が水際にあるのを見付けて零余子むかごが茎へ出ていたので、それを採って帰り、「むかごにんじん」であることを知った。
病みこやす人が眼うつすの庭に零余子むかごそよぎてげに外目ほかめなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)