おとし)” の例文
旧字:
「われ雪水ゆきみずをもて身を洗い、灰汁あくをもて手をきよむるとも、汝われを汚らわしき穴の中におとしいれ給わん、しかしてわが衣も我をいとうに至らん」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
だが、彼女はその品々について全く覚えがなく、だれかが彼女をおとしいれるために用意して置いた偽証に相違ないと主張した。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その苦痛が、そう云う運命にあの男をおとしいれたのであろう。そこでこうして、この別荘の冬の王になっている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
稲代はかかる悲運におとしいれた種蒔の若者達を、極悪のかたきと呪わずにはいられなかった。けれどもどこの誰やら暗闇の出来事とて、もとより知れようはずがなかった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これは当時の諸侯としては類のない事ではなかつたが、それが誇大に言ひされ、意外に早く幕府に聞えたには、綱宗をおとしれようとしてゐた人達の手伝があつたものと見える。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分が藤尾をおとしいれるにしても、藤尾が自分を陥いれるにしても、二人の間に取り返しのつかぬ関係が出来そうな際どい約束を、素知らぬ顔で結んだのみか、今実行にとりかかろうと云う矢先に
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抽斎は『老子』を尊崇そんそうせんがために、先ずこれをヂスクレヂイにおとしいれた仙術を、道教の畛域しんいき外にうことをはかった。これは早くしん方維甸ほういでん嘉慶板かけいばんの『抱朴子ほうぼくし』に序して弁じた所である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)