闖入ちんにふ)” の例文
さうして、彼等の魂の『もの云はぬ海』へ、大膽と好意を以て、闖入ちんにふすることは、屡々、彼等に、第一の恩惠を與へることになるのだ。
それはまるで、この道路が彼の私有物で、そこを案内もなしに闖入ちんにふして来る見ず知らずの男を咎めにかゝつてでもゐるかのやうであつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
庭先に並べた草花の鉢の芽を、後生大事にいつくしんでゐるところへ、この足に眼のない男が木戸を跳ね飛ばすやうに闖入ちんにふして來たのでした。
あたかも潜者の水底に沈みて真珠を拾ふが如く自然界の奥に闖入ちんにふし、冥想を以て他界の物を攫取くわくしゆし来るを以て詩人の尊む可きところとはするなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いくら退けと云つても彼等は平然として腰を掛けてゐながら、じろじろと軽蔑の眼を以て人の顔を見て居る。時には表の戸を開けて庭の中まで闖入ちんにふして来る事もある。
発行所の庭木 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
災害と云ふものは、むしろ思ひがけない方面から思ひがけない方面へと闖入ちんにふして来るものだ。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「私は君も知つてる通り、いろんな新聞雑誌に関係してゐて、ゆつくり君たちにお目にかかる暇はないんだがね。」この新聞王は無謀な雀のやうな闖入ちんにふ者を見つめながらいつた。
青天にも白日にも来り、大道の真中にても来り、衣冠束帯の折だに容赦なくたつを排して闖入ちんにふし来る、機微の際忽然こつぜんとして吾人を愧死きしせしめて、其来る所もとより知り得べからず、其去る所亦尋ね難し
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
或る日、それらの一羽が、彼の家へ紛れ込んで来たが、犬どもの繋がれて居るのを見ると、したりげに後から後から群をなして彼の庭へ闖入ちんにふした。さうして犬の食ひちらした飯粒を悠然と拾ひ初めた。
云はゞ闖入ちんにふせんとした。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼女の家族のつどひの中に、永久に闖入ちんにふして來た氣心も知れぬ外來者の面倒を見なければならぬことは、最も煩はしいことに違ひなかつた。
われは理想詩人なる露伴が写実作者の領界に闖入ちんにふして、かへつて烏の真似をすると言はれんより、其奇想を養ひ、其哲理を練り、あはれ大光明をはなちて
不用意に闖入ちんにふした平次が、ハツと立ちすくんだのも無理はありません。