門並かどな)” の例文
旧字:門竝
細い釘店くぎだなの往来は場所がらだけに門並かどなみきれいに掃除されて、打ち水をした上を、気のきいた風体ふうていの男女が忙しそうにしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこは僕の住んでゐた元町もとまち通りにくらべると、はるかに人通りも少なければ「しもた」もほとん門並かどなみだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貧書生が「われに万両の金あれば、明日より日本国中の門並かどなみに学校を設けて家に不学の輩なからしめん」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「不断百も持っていない人間だが、この二三日馬鹿に景気がよくて、伊太郎などは近在の賭場とば門並かどなみ荒らして歩いたそうだよ。——なんでも金のる木を植えたとか言って」
そこで不思議なことは、ねえ、旦那。そのなかで、この家だけは無事でした。門並かどなみ焼け落ちたなかで、この家だけはちやんと残つてゐたんです。どう考へても不思議ぢやありませんか。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
堤の上の小さい松の並木、橋の上の人影までが、はっきり絵のように見える。自分は永代橋の向岸むこうぎしで電車を下りた。その頃はほとん門並かどなみに知っていた深川の大通り。かど蛤屋はまぐりやには意気な女房がいた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
門並かどなみ刺青をさせたり、心中ごつこをやつて見たり、近頃は綺麗な妾を庭先にかこつて、忍ぶ戀路と來やがる、——自分の部屋の窓から脱出して、離屋の窓から這上はひあがるんだつてね
僕等は門並かどなみの待合まちあひあひだをやつと「天神様てんじんさま」の裏門へ辿たどりついた。するとその門の中には夏外套を着た男が一人ひとり、何か滔々としやべりながら、「お立ち合ひ」の人々へ小さい法律書を売りつけてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「滝三郎が入込んでから、誰もとがめ手がないのと、お袋が死んで少し自棄やけになったんでしょう。三文賭博ばくちを打つ元手のない時は、この辺の飲屋を門並かどなみ荒して歩いていますよ」