鋳掛屋いかけや)” の例文
旧字:鑄掛屋
「近頃、あの家の者か、出入りの者で、鍵を拵えさせた者はないだろうか、山の手一円の鍛冶屋かじや鋳掛屋いかけやを、ごく内緒で調べて貰いたいんだが——」
芝、田町たまち鋳掛屋いかけや庄五郎が川崎の厄除やくよけ大師へ参詣すると云って家を出たのは、元治元年三月二十一日の暁方あけがたであった。
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
唐金からかねなべしろみを掛けるようなもので、鋳掛屋いかけやの仕事であるが、塩酸亜鉛があれば鉄にも錫が着くと云うので、同塾生と相談してその塩酸亜鉛を作ろうとした所が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
崖頂まで大蛇の仲継をたのまにゃならぬとは不似合な話だが、呉の劉綱その妻はん氏とともに仙となり、大蘭山上の巨木に登り鋳掛屋いかけや風の夫婦づれで飛昇したなどその例多し。
鋳掛屋いかけやのトム・ハイドは絞首台に立って、何かいいたいことはないか、と、かれた。
「若旦那なら中どころを御註文なさいまさあ。若い方は鋳掛屋いかけや天秤棒てんびんぼうで先がなごうがすからな。然るところ旦那さまや手前どもになりますと、もう一番勝負です。後がありません」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その一は出雲・相模・下野などの地名に銕糞かなくそ塚というもの多くまた塚の附近もしくは土中より銕糞を出すことあり、今も鋳掛屋いかけやと称する徒には野外の一地に仮住してその業を営み
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
十六夜いざよい清心せいしんが身をなげた時にも、源之丞げんのじょう鳥追姿とりおいすがたのおこよを見そめた時にも、あるいはまた、鋳掛屋いかけや松五郎が蝙蝠こうもりの飛びかう夏の夕ぐれに、天秤てんびんをにないながら両国の橋を通った時にも
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朝、或る鋳掛屋いかけやが通つてゐました。アムブロアジヌお婆あさんは古い湯沸しを売りました。其の上にストオヴの上で足が熔けたランプと、不用のソース鍋を二つ売つて、それを渡しました。
岸本は年少とししたなくせに出過ぎて生意気だというところから、「鋳掛屋いかけやの天秤棒」という綽名あだなを取っていた。以前はそれを言われると——殊に高輪の通りで知った人の見ている前では——可成かなり辛かった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何とかいう芝居で鋳掛屋いかけやの松という男が、両国橋の上から河上を流れる絃歌の声を聞いて翻然大悟しその場から盗賊に転業したという話があるくらいだから、昔から似よった考えはあったに相違ない。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鋳掛屋いかけやが私たちに話した。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真っ先に応えてくれたのは、一間半ばかりの路地をへだてて筋向うに住んでいる、鋳掛屋いかけやの岩吉でした。
書いた様子だ。鋳掛屋いかけやの小僧に小遣をやって訊いてみると、手紙の頼み主は、どうも宇太八らしい。五十七八の、よく禿げた、大きな高荷を背負った男だというから
石原町いしはらちょう日傭取ひようとりの娘お仙と駄菓子屋の女房のおまき、それから石原新町しんまち鋳掛屋いかけやの娘おらく——」
「大丈夫、その辺に抜け目のある八五郎じゃねえ。ちゃんと糸目をつけて飛ばしてありますよ。小僧は町内の鋳掛屋いかけやせがれ巳之松みのまつ、とって十三だが、智恵の方は六つか七つだ」
鋳掛屋いかけやの岩吉さんが、本所の友達の祝事で遅くなるから、木戸は締めずにおいてくれと言いますから、そのままにして寝てしまいました。もっとも眠ったわけじゃありません。
金五郎の向う側は、鋳掛屋いかけやの岩吉の家でした。行ってみると、これはすっかりおびえてしまって、昨日から稼業も休み、何をするでもなく、ただワクワクと暮している様子です。
「それから、もう一つ、あの藤助という野郎は、下谷二長町の鋳掛屋いかけやせがれですよ」
頼むのに、相手が鋳掛屋いかけやの小僧だにしても、四文銭三枚という法はあるまい。——外ならぬ銭形の平次へ果し状を付けるんだ、二分や一両とはずまないまでも、二朱や一分はきっと出す
「空地で遊んでいたのを、多勢の人が見ていましたよ。もっとも一番後で五人の子供が空地の隅っこに一とかたまりになって話しているのを見たのは、鋳掛屋いかけやの権次という、評判のよくない男で」
次は田町の鋳掛屋いかけやの倅藤吉とうきち、これは十二になって、たくましい子でしたが、夕方使いに出た帰り、近道をして浜で曲者に襲われ、持物も着物も滅茶滅茶に千切って捨てて、それっきり姿を見せません。
伽羅や沈香は、こちとらの家にある品じゃない——ところで、鋳掛屋いかけやの権次は空地のどの辺に店を張って仕事をしているんだ。だいたい場所がきまっているだろう、炭の断片かけらか、鉄屑かなくずがあるはずだ。
鋳掛屋いかけやの権次でしょう、逢いましたよ」