辿々たどたど)” の例文
以上、老母からの手紙は、辿々たどたどしい文ではあるが、大丸という大呉服店を通して、そのうらのおたなものの奴隷生活がうつしだされている。
俊吉は、外套がいとうしに、番傘で、帰途かえりを急ぐうちに、雪で足許あしもと辿々たどたどしいに附けても、心も空も真白まっしろ跣足はだしというのが身に染みる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かどのお札をさえ見掛けての御難題、坊主に茶一つ恵み給うも功徳なるべし、わけて、この通り耳もうとし、独旅ひとりたび辿々たどたどしさもあわれまれよ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お京の爪皮つまかわが雪をんで出た。まっすぐに清水きよみず下の道へは出ないで、横に池について、褄はするするとさばくが、足許の辿々たどたどしさ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝を露顕あらわな素足なるに、恐ろしい深山路みやまじの霜を踏んで、あやしき神の犠牲にえく……なぜか畳は辿々たどたどしく、ものあわれに見えたのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早瀬より、忍び足する夫人の駒下駄が、かえっておののきに音高く、辿々たどたどしく四辺あたりに響いて、やがて真暗まっくらな軒下に導かれて、そこで留まった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杖をこみち突立つきたて/\、辿々たどたどしく下闇したやみうごめいてりて、城のかたへ去るかと思へば、のろく後退あとじさりをしながら、茶店ちゃみせに向つて、ほっと、立直たちなおつて一息ひといきく。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
杖をこみちに突立て突立て、辿々たどたどしく下闇したやみうごめいて下りて、城のかたへ去るかと思えば、のろく後退あとじさりをしながら、茶店に向って、ほっと、立直って一息く。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新しいひのきの雨戸、それにも顔が描かれそう。真直まっすぐに向き直って、ともしびを差出しながら、つきあたりへ辿々たどたどしゅう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、あとへ退さがって、南面に、不忍しのばずの池を真向いに、高欄の縁下に添って通ると、欄干の高さに、御堂の光明が遠くなり、樹の根、岩角と思うまで、足許あしもと辿々たどたどしい。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勿論江戸時代、寛政、明和の頃に、見もし聞きもした不思議な話を筆写したものでありますが、伝写がかさなっているらしく、草行まじりで、丁寧だけれども筆耕が辿々たどたどしい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこを伝う風も、我ながら辿々たどたどしかった。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青月代は辿々たどたどしく
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)