越中褌えっちゅうふんどし)” の例文
その一つを拾った万平は、向うの壁に干してある、誰かの越中褌えっちゅうふんどしで包んでシッカリとひもゆわえて、大切そうに袖の間へシッカリと抱えた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてとうとうしまいには、越中褌えっちゅうふんどし一つの主人が、赤い湯もじ一つの下女と相撲すもうをとり始める所になった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
柏軒の四女やすは保さんの姉水木みきと長唄の「老松おいまつ」を歌った。柴田常庵しばたじょうあんという肥え太った医師は、越中褌えっちゅうふんどし一つを身に着けたばかりで、「棚の達磨だるま」を踊った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「その時の君の風采ふうさいはなかったぜ、金巾かなきんのしゃつに越中褌えっちゅうふんどしで雨上りの水溜りの中でうんうんうなって……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三平は風呂場の裏にまわって積んである煉瓦れんがを一ツ取り上げた。そこに干してある越中褌えっちゅうふんどしで包んでひもでグルグル巻きにして袖の間に抱え込んだ。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ところへ野だがすでに紀伊の国を済まして、かっぽれを済まして、たな達磨だるまさんを済して丸裸まるはだか越中褌えっちゅうふんどし一つになって、棕梠箒しゅろぼうきを小脇にい込んで、日清談判破裂はれつして……と座敷中練りあるき出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前にも話した通り吾輩は、パトロンの有閑未亡人亜黎子ありこさんの爆発昇天後、世の中がひもの切れた越中褌えっちゅうふんどしみたいにズッコケてしまって何をするのもイヤになった。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……と……駐在所の入口になっている硝子戸が内側からガタガタといて、色の黒い、人相の悪い顔に、無精鬚ぶしょうひげ蓬々ぼうぼうと生した、越中褌えっちゅうふんどし一つの逞ましい小男が半身を現わした。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それ以来何もかも夢だという事をハッキリ自覚した……女ばかりじゃない。人間万事が何一つ当てにならない事を自覚した吾輩は、越中褌えっちゅうふんどしひもが切れたみたいな人間になってしまった。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)