誰人たれひと)” の例文
善き姥は遠く汲んでその労を報いられたという口碑などと同じ系統の古い形であることは、誰人たれひともこれを認め得る。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
容貌ようぼう甚だ憔悴しょうすいし、全身黒みせて、つめ長くひげ短し、ただこれのみならむには、一般乞食こつじきと変わらざれども、一度その鼻を見る時は、誰人たれひとといえども、造化の奇をろうするも、また甚だしきに
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これらのことを聞いたのちに、抽斎の生涯を回顧すれば、誰人たれひともその言行一致を認めずにはいられまい。抽斎はうち徳義を蓄え、ほか誘惑をしりぞけ、つねおのれの地位に安んじて、時の到るを待っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)