覚期かくご)” の例文
そは覚期かくごの前なり。喰い残りの麦飯なりとも一椀を恵み給わばうれしかるべしとて肩の荷物をおろせば十二、三の小娘来りて洗足を参らすべきまでもなし。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そのたびに彼は思わず立竦たちすくんだ。如何どうしても落ちずにはまぬらいの鳴り様である。何時落ちるかも知れぬと最初思うた彼は、屹度きっと落ちると覚期かくごせねばならなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼是かれこれを思合せて考へると——確かに先輩は人の知らない覚期かくごを懐にして、の飯山へ来たらしいのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
丁度二時頃の今時分に毎夜此処ここ牛乳ちヽを取りに来た、自身でそれをしに来られなくなつた頃から私はもう死を覚期かくごしたなどヽ思ひ出すのです。ほこりの溜つた棚の向うの隅には懐中鏡が立てヽあるのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼時あのときにもう夫は覚期かくごして居ることが有つたらしい——信州の小春は好いの、今度の旅行は面白からうの、土産みやげはしつかり持つて帰るから家へ行つて待つて居れの
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
已に覚期かくごをした様であったが、年と共にたまあらたに元気づき、わずかに病床を離るゝと直ぐ例の灌水かんすいをはじめ、例の細字さいじの手紙、著書の巻首かんしゅに入る可き「千代かけて」の歌を十三枚
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
而して自身亜米利加に渡って葛城を救わねばならぬと覚期かくごした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)