褒貶ほうへん)” の例文
馬琴としては区々世評の如きは褒貶ほうへん共に超越して顧みないでも、たとえば北辰ほくしんその所にいて衆星これをめぐるが如くであるべきである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
手法の自由さと意図の奔放ほんぽうさに、褒貶ほうへん相半あいなかばしたが、その後相次あいついで含蓄の深い大曲を発表し、独特の魅力で反対者の口をかんしてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
対等であるべき無数の欲求に第一義第二義の褒貶ほうへんを加える非現実的な旧い概念から脱しきらない議論のように私には見える。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そして人間の世は過去も将来もなく唯その日その日の苦楽が存するばかりで、毀誉きよ褒貶ほうへんも共に深く意とするには及ばないような気がしてくる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
山口駿河するがは監察(目付)の向山栄五郎むこうやまえいごろう(黄村)と共に進み出て、将軍が臣下のことは黜陟ちゅっちょく褒貶ほうへん共に将軍の手にあるべきものと存ずる、しかるに
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
褒貶ほうへんもとより花袋君の自由である。しかし今日より六年後に、小生の趣味が現今の花袋君の趣味に達すると、達せざるとも固より小生の自由である。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目安箱というのは、歴代の将軍が民情を知る具にした訴状箱で、老中の褒貶ほうへん、町奉行、目付、遠国の奉行の非義失政などの忌憚のない密告書が出てくる。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのとき三十四歳になっていたが、七年まえからずっと和歌山に帰ったままで、褒貶ほうへんいろいろの評があった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「とにかくよく死んだ。是非はどうとも言えるが、死ぬものはあと褒貶ほうへんなんぞ考える必要はないから」
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
褒貶ほうへんかかわらず兎に角私の作品に完全な理解を示して呉れるのは、ヘンリイ・ジェイムズ位のものだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
故に斬新なる句を見る人は熟吟熟考して後に褒貶ほうへんすべし。これ大家たいかの上にも免れざる一弊なりとす。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すなわち人間のあらゆる積極的な意欲はことごとく、道徳の実質であって道徳律はその意欲そのものを褒貶ほうへんするのでなく、その意欲間の普遍妥当なる関係をきめるのである。
消極的自己感情は、吾人に対する他人の態度に注意せしめ、その人々の意見に耳を傾けしむるものであって、これが世の褒貶ほうへんの吾人に対して力を有する根本条件の一つである。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼の『第四交響曲』は褒貶ほうへん区々な曲であったのを、ニキシュの指揮によって俄然その真価を人に知られたと言われている。
余は曙覧を論ずるにあたりて実にその褒貶ほうへんに迷えり。もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々らいらいらくらく世間の名利に拘束せられず、正を守り義を取り俯仰ふぎょう天地にじざる、けだし絶無僅有きんゆうの人なり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
所謂いわゆる二種の小説とは、余裕のある小説と、余裕のない小説である。ただ是丈これだけではほとんど要領を得ない。のみならず言句にまつわると褒貶ほうへんの意をぐうしてあるかの様にも聞える。かたがた説明の要がある。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われ一人の者としたという褒貶ほうへんの義を含ませてあるのである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
褒貶ほうへん相半ばするという言葉も、ワグナーの場合は必ずしも当らない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
したがって褒貶ほうへんの私意をぐうしては自家撞着じかどうちゃくの窮地におちいります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)