背景バック)” の例文
「僕もこれは読んでいないが、いったい、あアいう連中の書いてる物はいずれも小器用にはまとまってるが、少しも背景バックや深みがない」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
当代の英雄は、財力を背景バックとしなければならぬと、彼は何時からか思ひ込んでゐる。黄金のために黄金を崇拝するのでなければ、聊かも恥ぢるところはない。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その背景バックになっていることで、北寒地方の雪といえども、これらには辛うじて匹敵し得られるに過ぎまい。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
裏庭を距てて静かなる湾あり、湾の対岸は削れるが如き絶壁にしてその頂上には古き白亜の音楽堂あり(但し之は背景バックなり)、出入口の左右に大いなる窓あり。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
住居すまいでも、料理でも、酒でも、香料でも……ね……御存じでしょう……エロの方面でも何でも、個人的な享楽機関と来たら、四千年の歴史を背景バックにしているだけに
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はある怖ろしい予感に脅かされながら、まばらな木立を背景バックにした共同椅子の前へ出ると、コルトンが草の上へ俯せになってたおれていた。其辺にはまだ火薬の臭が漂っていた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
門前で車を降りた私達は、真直まっすぐにK造船所の構内へやって来た。事務所の角を曲ると、鉄工場の黒い建物を背景バックにして、二つの大きな、深い、乾船渠ドライ・ドックの堀が横たわっている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それが遠い灰色の雲なぞを背景バックにして立つさまは、何んとなく茫漠ぼうばくとした感じを与える。原にある一筋の細い道の傍には、紫色に咲いた花もあった。T君に聞くと、それは松虫草とか言った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勿論作品の性質が寫生スケッチ風のものであるから、それに對して廣い背景を要求するのは無理かもしれないが、一體に夫人の作品には、背景バックの淺い恨みがあるので、ついでを借りて云ひ度いのである。
それで、一案として顕微鏡の下に黒い背景バックを置き、光源を変えて水平から光線を送るようにしたのですが、その結果始めて、透明の菌だけから反射されてくる光線を見ることが出来たのでした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そうして、私はまた見た、その背景バックの白い雲の峰を
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
多々羅たたら川の鉄橋を越えて、前の事件の背景バックになった、地蔵松原の入口で大曲りをすると、一直線に筥崎駅まで、ステキに気持ちのいいスピードをかけるのであったが
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
原始の巨人ジャイアントは、鋼鉄のような固い頭を振り立てて、きょうもまた霧の垂幕を背景バックにして、無言のまま日本の、陸地の最も高い凸点にぬーっと立っている、全能の大部分を傾けて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
やがて、匂やかな十月の闇を背景バックに、二つの黒い影が獣のやうにもつれあつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それは白い床の雪の中から髪の毛の柔かい、薔薇色の頬の愛らしい乙女が、顔を出して、涼しい眼をバッチリと瞬いている、背景バックは未だ寂寥な眠からめない、やみの空に、復活の十字架が
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)