聖天しょうでん)” の例文
善八を案内者につれて、半七が馬道へゆき着いた頃には、このごろの長い日ももう暮れかかって、聖天しょうでんの森の影もどんよりとくもっていた。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼とは聖天しょうでんの盗っ市で別れて以来でありますが、主人万太郎の意思をうけて自分を迎えに来たとすれば、すべての事情は知っていよう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おこうさんの妹おりゅうさんはかつて剞劂氏きけつし某に嫁し、のち未亡人となって、浅草聖天しょうでん横町の基督クリスト教会堂のコンシェルジェになっていた。基督教徒である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この村に聖天しょうでんを祭っている名高い寺があって、信者もすこぶる多い。その氏子に属する村落にては、雉子きじを崇敬することと松の木を忌み嫌うことがはなはだしい。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「あすこは聖天しょうでんさまがまつってあるんですの。あらたかな神さまですわ。舟で行くといいんですけれど。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それこの土地には八丁畷はっちょうなわての徳さんという親分がある。一ト口に八丁徳さんという。もう一人互角の勢いの親分は聖天しょうでんの権太郎さん、これを一ト口に聖権さんという。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
角町から三筋通り、辻を曲がって藪小路、さらに花木町緑町、聖天しょうでん前を右へ抜け、しばらく行くと坂本町……二人の武士は附かず離れず半刻はんときあまりも歩いて行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、しかし、今この材木場の奥に突き当って、そこに眺めた深い暗やみはたしかにその一ツで、俗に、聖天しょうでんあなといった跡にちがいない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聖天しょうでん様や袖摺そですり稲荷の話も出た。それからだんだんに花が咲いて、老人はとうとう私に釣り出された。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大黒天も聖天しょうでんもそれなのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
川口から向う河岸がしには三囲みめぐりの土手を見、すぐ右側には真土山まつちやま聖天しょうでん、森と木の間の石段が高く仰がれる麓であります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けさももう五つ半(午前九時)過ぎで、聖天しょうでんの森では蝉の声が暑そうにきこえた。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この時代の町奴の習いとして、その他の者共も並木なみき長吉ちょうきち橋場はしば仁助にすけ聖天しょうでん万蔵まんぞう田町たまち弥作やさくと誇り顔に一々名乗った。もうこうなっては敵も味方も無事に別れることの出来ない破目になった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)