老婆おばあ)” の例文
と森彦が款待顔もてなしがおに言出した。彼は宿の小娘を呼んで、御客様に踊を御目に掛けよ、老婆おばあさんにも来て、三味線しゃみせんを引くように、と笑い興じながら勧めた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なにネ、若い方は兎角とかく耻づかしいもんですよ、まア其のうちが人も花ですからねエ——松島さん、たまには、老婆おばあさんのお酌もお珍らしくてう御座んせう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
老婆おばあさん、いくら探しても、松三郎といふのは役場から來た學齡簿の寫しにありませんよ。』と、孝子は心持眉を顰めて、古手拭を冠つた一人の老女としよりに言つてゐる。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は此の頃は誰が来ても身の懺悔をして若い時の悪事の話を致しますと、遊びに来る老爺おじいさんや老婆おばあさんも、おゝ/\そうだのう、悪い事は出来ないものだと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お節姉妹きやうだいは叔父さんのそばでお父さんのことやおつかさんのことや、それから年を取つた老婆おばあさん、叔父さんの子供と幾つも違はない末の弟の噂などをしきりとした。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
老婆おばあさん、いくら探しても、松三郎といふのは役場から来た学齢簿の写しにありませんよ。』と、孝子は心持眉をひそめて、古手拭を冠つた一人の老女としよりに言つてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分の財産しんだいげて保証うけにんの義務を果たすと云ふ律義な人でなかつたならば、老婆おばあさんも今頃は塩問屋の後室おふくろさまで、兼吉君は立派に米さんと云ふ方の良人をつととして居られるのでせう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
隣の叔母さんは裏庭にある大きな柿の樹の下へむしろを敷いて、ネンネコ半天を着た老婆おばあさんと一緒に大根を乾す用意をしていた。未だ洗わずにある大根は山のように積重ねてあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)