かす)” の例文
が、不自由しなかったという条、折には眼がかすんだり曇ったりして不安に脅かされていたのは『八犬伝』巻後の『回外剰筆かいがいじょうひつ』を見ても明らかである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
取っつきのお美野の寝間には、有明行燈の灯がぼうっと障子にかすんで、何の異状もありそうに思えない。
「子供が目を覚すじゃないか。それに女中部屋にも聞える」かすめた声に力を入れて云ったのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
木の枝で遮られて、かすめられたような日の光が、好い心持ちに自分を照している。日蔭も、静けさも、柔かい空気も、すべて我が身の幸福であるように感じた。そしてそれを受用した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
乳母はフロルスの前にしやがんで、お伽話や、小さい時の話をしてゐたが、それが種切になつてからは、自分のかすんだ目で見、遠くなつた耳で聞いた事をなんの連絡もなしに話し出した。
こんな風に身を落してこそおれ、今に見よ、同志揃って吉良邸に乗りこみさえすれば、主君の仇を討った忠義の士として、世にうたわれる身だというような意識がちらと頭の中をかすめたのである。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
記憶がややおぼろげになってはいるが又かえってそれがめに、或る廉々かどかどがアクサンチュエエせられて、かすんだ、濁った、しかも強い色にいろどられて、古びた想像のしまってある
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山のやうに積んである穀物をるのだから、屑は澤山出る。それをあの婆あさんが一撮程づゝ手に取つて、かすんだ目で五味をり出したところで、それが何のたしになるのでもない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ひかげはもうヴェランダののきを越して、屋根の上に移ってしまった。さおに澄み切った、まだ秋らしい空の色がヴェランダの硝子戸を青玉せいぎょくのように染めたのが、窓越しに少しかすんで見えている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)