緋衣ひい)” の例文
わけてその外交的な遠謀と智慮にかけては、若い謙信のごとき、到底、あの百錬の功を緋衣ひいの僧将の頭脳には敵すべきもなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉座を自由の手にかえし、民衆を本来の民衆たらしめ、大権を人間に戻し、緋衣ひいを再びフランスの頭にきせ、道理と公正とをその円満なる状態に返し
左僉都御史させんとぎょし景清けいせいいつわりて帰附し、つねに利剣を衣中に伏せて、帝に報いんとす。八月望日、清緋衣ひいして入る。これより先に霊台れいだい奏す、文曲星ぶんきょくせい帝座を犯す急にして色赤しと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうかと思うと、神様の方面には幽霊と同様、青衣の神もあるが、上帝の使いに緋衣ひいの神あり。わが国の福の神、シナでいえば守蔵神が緋衣を着ている。天符を持ち来たれる神が同じく朱衣である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
庭の泉石から室を吹きとおしてくる風に、彼のからだは緋牡丹ひぼたんの花が炎のように揺れた。彼は、具足のうえに、大僧正だいそうじょう緋衣ひいを着ていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
消滅する事物の塗抹とまつのうちにも、消えする事物の縮小のうちにも、哲学はすべてを認知する。ぼろを再び緋衣ひいとなし、化粧品の破片を再び婦人となす。
軍議といえば、彼は具足を下に着、緋衣ひいをうえにまとって、陣中にあるとおりな装いをしていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絞殺されたコンデ侯が証明するとおり絞首繩を示す王家の宿命を見、寒風の吹き込む高天の裂け目にほかならない冬を見、丘の頂の新しいあけぼの緋衣ひいのうちに多くのぼろを見
快活の気はわき立ち、譏刺きしは燃え上がり、陽気さは緋衣ひいのようにひろがっている。二匹の痩馬やせうまは、花を開いてる滑稽を神に祭り上げて引いてゆく。それは哄笑こうしょう凱旋車がいせんしゃである。