ほだし)” の例文
かゝる動き、純なる空氣の中にありて全くほだしなやこの高嶺たかねを撃ち、林に聲を生ぜしむ、これその繁きによりてなり 一〇六—一〇八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ただ内親王たちが幾人もいることで将来どうなるかと案ぜられることは、今の場合だけでなくこの世を離れる際にもほだしになるであろうと思われる。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
すなはち新らしき一対の夫婦めをと出来あがりて、やがては父とも言はるべき身なり、諸縁これより引かれて断ちがたきほだし次第にふゆれば、一人一箇の野沢桂次ならず
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今日きょうにもあれ、明日あすにもあれ、この身のほだし絶えなば、惜しからぬ世を下に見て、こん千万里のくうを天に飛び、なつかしき母のひざに心ゆくばかり泣きもせん、訴えもせん
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この男には、かりそめのほだしが、猛然たる本能を呼び起すことは珍しくないので、活殺の力をわが手に納めた時に、それを無条件でつっぱなしきれなくなるのがあさましい。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
筆や鉛筆でもつて抱擁し、愛撫し、手ばなさぬやうにする、さういふ愛のほだしによつてのみ、それ等のデッサンや繪は價値があるやうに思へる、とあなたは仰言られて居ましたけれど。
うち見れば世を終るまで惜まれつ花はわがためほだしとぞ思ふ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
紫の女王一人が捨てがたいほだしになって、長く滞留せずに帰ろうとする源氏は、その前に盛んな誦経ずきょうを行なった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
刀のさびにするにも足らない奴だがよい折柄おりから端役はやく、こいつに女のいきさつをすっかり任せてしまえば、女のほだしから解かれることができる。竜之助はこうも思っているらしい。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
事なく高砂をうたひ納むれば即ち新らしき一對の夫婦めおと出來あがりて、やがては父とも言はるべき身なり、諸縁これより引かれて斷ちがたきほだし次第にふゆれば、一人一箇の野澤桂次ならず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われわれでさえやはりいよいよといえばほだしになることが多いのですからね。人真似まねの御道心はかえって誤解を招くことになりますから、断じてそれはいけません
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ことなく高砂たかさごをうたひおさむれば、すなはあたらしき一つい夫婦めをと出來できあがりて、やがてはちゝともはるべきなり、諸縁しよゑんこれよりかれてちがたきほだし次第しだいにふゆれば、一にん野澤桂次のざわけいじならず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その人自身には捨てられないほだしが幾つもあるものなのでございますから、ましてあなた様などがどうしてそう楽々と遁世とんせいの道をおとりになることがおできになれましょう。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
以前は気がかりに思われた人も今ではもう出家のほだしにならないだけになっているのです。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
捨てがたい優しい妻が自分の心を遁世とんせいの道へおもむかしめないほだしになって、今日までは僧にもならなかったのである、一人生き残って男やもめになったことは堪えがたいことではないが
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ある一つ二つの場合に得た失望感からゆがめられて以来は厭世えんせい的な思想になって、出家を志していたにもかかわらず、親たちのなげきを顧みると、このほだし遁世とんせいの実を上げさすまいと考えられて
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
去年今年と続いて不幸にあっていることについても源氏の心は厭世えんせい的に傾いて、この機会に僧になろうかとも思うのであったが、いろいろなほだしを持っている源氏にそれは実現のできる事ではなかった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そむく世のうしろめたくばさりがたきほだしひてかけなはなれそ
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そむきにしこの世に残る心こそ入る山みちのほだしなりけれ
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
さてそうもならないほだしは幾つもあった。
源氏物語:11 花散里 (新字新仮名) / 紫式部(著)