破障子やぶれしょうじ)” の例文
いま、きみは結構な町の畳からと言ったけれど、母親の寝ていた奥の四畳は破障子やぶれしょうじの穴だらけだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは小笹おざさの茂った低い土手を廻って、漸く道を求め、古松の立っている鳥居の方へ出たが、その時冬の日は全く暮れきって、軒の傾いた禰宜ねぎの家の破障子やぶれしょうじに薄暗い火影ほかげがさし
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
部落民にとっては、便所で紙を使うなんて何という贅沢ぜいたくなことであろう。手紙を書くにも彼らは、すすけた破障子やぶれしょうじの不用なのを用いるくらいであった。だが、紙の代りに一体何が用いられるのであろう。
そのわかい方は、納戸なんど破障子やぶれしょうじ半開はんびらきにして、ねえさんかぶりの横顔を見た時、かいな白くおさを投げた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々勝手口の破障子やぶれしょうじから座敷の中まで吹き込んで来る風が、薄暗いつるしランプの火をば吹き消しそうにゆすると、その度々たびたび、黒い油煙ゆえんがホヤを曇らして、乱雑に置き直された家具の影が
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寝惚声ねぼけごえして、破障子やぶれしょうじを開けたのは、頭も、顔も、そのままの小一按摩の怨念であった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)