真向まつかう)” の例文
旧字:眞向
現にかれなどはそれを真向まつかう振翳ふりかざしてこれまでの人生を渡つて来た。智慧ちゑを戦はして勝たんことを欲した。自己の欲するまゝにあらゆるものを得んことを欲した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
昼の蝋燭が鼻の真向まつかうにしんみりと光り輝く、眼と眼とがぢつとその底から吸ひ付くやうに差覗く……つくづくと陰影かげと霊魂と睨み会つたまま底の底から自愛と憐憫の心とが切々と滲み出る。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだ縁づかぬ妹どもが不憫ふびん、姉が良人おつとの顔にもかかる、この山村は代々堅気一方に正直律義を真向まつかうにして、悪い風説うわさを立てられた事も無き筈を、天魔の生れがはりか貴様といふ悪者わるの出来て
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さうしてこの変化は既に独逸が真向まつかうに振りかざしてゐる軍国主義の勝利と見るより外に仕方がない。戦争がまだ片付かないうちに、英国は精神的にもう独逸に負けたと評しても好い位のものである。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
真向まつかうより飛びきたる球待ち構ふる張りきらむずる立ちの雄々しさ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真向まつかうより皺だみ垂るる象の鼻どこからが鼻ぞいて見よ子よ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真向まつかうより打ちおろす太刀雷撃のこの太刀風は息もつかせず
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
赤き日に真向まつかうに飛ぶ鳥のはね遂に飛び入り行方ゆくへ知らずも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
七面鳥ひた迫りつつまじろがず肉嘴燃え伸ぶ真向まつかうの垂り
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)