生業たつき)” の例文
その巷は、狂奔する兵馬以外には、ただの生業たつきのかけらもなかった。——三井寺の味方危うし——の声が高い。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『多年、領主の御庇護ごひごによって、安穏あんのん生業たつきを立てて参ったのに、御恩も忘れ、殿の凶事に際して、すぐ損徳を考え、藩札の取付けにけるなどとはにっくい行為だ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの者にははり、灸治、按摩あんま売卜ばいぼくの道など教えて、ともあれ職屋敷の制度下にいれば、何かの生業たつきと保護を得られ、そして穀つぶしなどとさげすまれるいわれもなくなった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元成が、好きな道を生業たつきに活かして、大道芸人の仲間に伍したのは、それからだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「魚をって、生業たつきとしている人もあるんだから、それはいい。ひとつの慈悲だ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくせくと、下界の生業たつきに追われている人々は、その全姿を眼に仰ぐせつなのみ
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦後のちまたには、亡家の女たちが、みな身を売ったり浅ましい生業たつきのもとにあえいでいたが、その小娘は、亡主の二位殿と高時との仲にした亀寿丸かめじゅまるの行方を独りさがしあるいていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)