爛酔らんすい)” の例文
旧字:爛醉
果して爛酔らんすいの客が戸惑いして、のたり込んでいたな、厄介者だが、処分をしてやらずばなるまいと、お節介者の村正どんは、一歩足を踏み入れて
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、再び敵打の旅に上るために、楓と当分——あるいは永久に別れなければならない事を思うと、自然求馬の心は勇まなかった。彼はその日彼女を相手に、いつもに似合わず爛酔らんすいした。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
某政治家も爛酔らんすいして前後もわきまえず女中の助けをかりて蹣跚まんさんとして玄関に来たが、自分の強さ加減を証拠だてるため、女中がかぶらせた帽子を、おののく手より奪いとり、玄関の柱にたたきつけ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私は爛酔らんすい真最中まっさいちゅうにふと自分の位置に気が付くのです。自分はわざとこんな真似まねをして己れをいつわっている愚物ぐぶつだという事に気が付くのです。すると身振みぶるいと共に眼も心もめてしまいます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯応爛酔報厚意 まさ爛酔らんすいして厚意こういむくゆべく
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
爛酔らんすいして眠った人のように死んで居たのです。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
やがて癇癪が納まって陶然とうぜん——陶然からようやく爛酔らんすいの境に入って、そこを一歩踏み出した時がそろそろあぶない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
 昨日さくじつは紅楼に爛酔らんすいするの人
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ははあ、これだな、先刻、御簾の間の、闇にひとりぽっちの爛酔らんすいの客、しきりに囈語うわごとを吐いて後に、小兎一匹をとりこにしてとぐろを巻いて蠕動ぜんどうしていた客。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
引き上げられて行くうちに、爛酔らんすいした神尾主膳が、その酔眼をじっと据えて自分のかおを見下ろしているのとぶっつかって、お銀様はゾッと怖ろしくなりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この一間へ招き入れたと見ると、爛酔らんすいの客は、急に身を引きずって、自分で自分の頭を持って引摺って行くかとばかり、ずっと壁際の方に身を寄せてしまいました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)