焦臭きなくさ)” の例文
夕方、村に、焦臭きなくさい靄が低くこめる。山裾の町の電燈が、点々と燦き出すのを、広い耕地越しに縁側に立って眺める。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一體この青い煙は何處から流れて來るのかを知らうと見𢌞してゐると、私は更に、ひどく焦臭きなくさいのに氣がついた。
(上げ板をめくって見ろ、押入の中の夜具じゃねえか、焦臭きなくさいが、愛吉の奴がふて寝をしていやあがるだろう。)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廊下に聞えた奇怪きくわいな笑ひ聲のこと、三階に上つて行つた跫音あしおとのこと、煙と——私を彼の室に導いた焦臭きなくさい匂ひのこと、私が見つけたときの室の光景、運べる限りの水で彼を水浸みづびたしにした顛末てんまつなど。