焦熱しょうねつ)” の例文
多少の呼吸も心得ている上に、今は恩人最後の大業を、命にかけても焼き上げようとする一念があった。焦熱しょうねつの懸命があった。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで火山の噴火孔ふんかこう熔鉱炉ようこうろ真唯中まっただなかに落ちこんだのと同じこと。まばゆさに目をあいていることも出来ぬ。鼻をつく異臭にむせて、息も絶え絶えの焦熱しょうねつ地獄だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところで猛火に焼かれた上、池へ飛び込んで死んだというから焦熱しょうねつ地獄と八寒地獄、こいつを経たというものさ。その上死んでからは無縁仏だ。これじゃア実際浮かばれまいよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ああ妾の生活は、まるで焦熱しょうねつ地獄だ。妾はどうしてこんなに苦しまなければならんのだろう。何を信じてよいのか、何を信じていけないのか、妾は全くわからなくなってしまった。
焦熱しょうねつ地獄じごくのような工場の八時間は、僕のような変質者にとって、むしろ快い楽園らくえんであった。焼け鉄のっぱい匂いにも、機械油の腐りかかった悪臭にも、僕は甘美かんびな興奮をそそられるのであった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士 (朗読す)——紅蓮ぐれんの井戸堀、焦熱しょうねつの、地獄のかまぬりよしなやと、急がぬ道をいつのまに、越ゆる我身の死出の山、死出の田長たおさの田がりよし、野辺のべより先を見渡せば、過ぎし冬至とうじの冬枯の
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くわの下から火が燃え、かつぐ石材は熱鉄のほむらを立て、む水も湯のような焦熱しょうねつの刑場だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)