濛気もうき)” の例文
我々は、突如濛気もうきの一角を衝いて現れたる英国監視艦のために発見せられ、たちまちその集中猛火を浴びせ掛けられたのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
濛気もうきの幕によろめくような機影を曳きながら飛んでいたが、おいおい高度をあげるにつれて、四方からコクのある雲がおしかさなってきて
雲の小径 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
艇ははげしく震動し、尾部からは濛気もうきが吹きだす。この三十秒が、命の瀬戸際せとぎわだ。どうぞミミ族よ、気がつかないように……。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……うん、そう云えば仮面の大将を、おいらチラリと見たことがあった。……それはそうと、あッ、畜生! 相変らず濛気もうきが立ってやがるなあ!
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この日の朝は、濛気もうきが四方に立ちこめて、水平線ははっきり見えなかったが、海鳥は船のまわりを飛びかわし、その数は、だんだん多くなってきた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
三十七、八年の戦役に我が艦隊を悩ました濛気もうきもこの従兄弟いとこのようなものであろう。また船乗の恐れる海坊主というのは霧の濃いかたまりだという説がある。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つまり、その1から4までのものと云うのは、最後に上った濛気もうきをある一点に送り込む——詳しく云えば、それに一つの方向を決定するために必要だったのだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「いや、そうか。そういわれてみると、濛気もうきの開けるような心地がする。——さらば、小さな私事を離れて、さらに大きな問題についてたずねたいが、いったい将来の天下はどうなるだろう」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風はぼうぼうと吹いていたが湖水の面は波も立たず、その一所に月を浮かべ、紫立って煙っていた。そうして例の濛気もうきの壁が空に高く立ち上っていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空には、濛気もうきの濃い層をとおしてあか色にみえる月が、すばらしく、大きなかさをつけてどんよりとかかっている。私はいまだに、これほど超自然な不思議な光輝をみたことはない。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
血を見るや彼自身も、その濛気もうきに酔ってきたのか、女の半裸からの下までをズタズタなあけに斬りさいなみ、あとは憑かれたものの如く、茫然ぼうぜん、血刀をさげて我に返らぬことしばしであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ船の中の水夫の姿さえ、薄絹うすものの奥にあるようだ。朦朧もうろうとして見究められぬ水を見ようと覗いて見ても、湖水の蒼い水の代りに、乳色の濛気もうきを見るばかりだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが一かたまりの濛気もうきとなり、王宮の内へ流れ入ると、やがて池畔ちはんの演武堂にはしり上がり、四、五百体の左慈そのままな姿をもった妖人が、あやしげな声を張り、奇なる手ぶり足ぶりをして
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いがけぬ崩壊が風をおこして、地上の濛気もうきが裂けたのである。とたんに、三人がはっと息をめた。それまで、濛気にさえぎられてずっと続いていると思われた密林が、ここで陥没地に切り折れている。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
篠突しのつくような暴雨であった。雨脚あまあしが乱れて濛気もうきとなり、その濛気が船を包み、一寸先も見えなくなった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
醒々冷々せいせいれいれいたるすみのごとき濛気もうきが、ぶっ仆れた面々の上をかすめた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身にまとった濛気もうきを払い落とし、スックとばかり立ち上がったが、見れば月代さかやき長く延び百日かずらかぶりし如く、墨染すみぞめの布子、丸絎まるぐけの帯、鏈帷子くさりかたびら肌に纏い、顔面長おもながく色蒼く
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若衆の姿も薄れ行き一団の濛気もうき片々として虚空こくう彼方あなたに飛ぶと見えたが、その濛気さえ人影さえ、跡形もなく消え去って月も星もない闇の空ばかり、高く寂しく懸かっている……。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
濛気もうき周囲まわりを取り巻いているね」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)