漕手こぎて)” の例文
僧堂を辭し去るあした、大空は灰色のうすぎぬを被せたる如くなりき。岸には腕たしかなる漕手こぎて幾人か待ち受け居て、一行を舟に上らしめたり。
折から雲間を洩れた月光を湖面一杯に浴びて二艘の端艇ボートは矢の様に水上をすべる。警官隊の舟は軽快な上に漕手こぎては二人である。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「ははアじゃないよ。君もぼんやりしとるじゃないか。いまボートにのって出懸でかけたのは、事務長と六名の漕手こぎてだから、みんなで七名だ。ところが今見ると、いつの間にやら八名になっている」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
通訳兼漕手こぎてとして、料理人のタロロを連れて行く。七時に礁湖を漕出す。気分未だすぐれず。マリエに着きマターファから大歓迎を受く。但し、ファニイ、ベル、共に余が妻と思われたらしい。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ある時父は用が出来て一寸ちよつと家へ帰つた留守に母がタケシ(此児の名)をつれて湖辺を散歩して居升と、武はいつも乗る小舟が岸につないで有るのを見て母にせがみ、一処にのつて、母は見覚えの漕手こぎてとなり
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
舟はおの/\二客をへさきともとに載せて、漕手こぎては中央に坐せり。舟の行くことの如く、ララと我との乘りたるは眞先に進みぬ。
いでわれみづから往いて求めんとて、朝まだきに力強き漕手こぎて四人をやとひ、みなと舟出ふなでして、こゝかしこの洞窟より巖のはざまゝで、名殘なごりなく尋ね給ひぬ。