滅失めっしつ)” の例文
そう思いつめると、今は官兵衛の生への執着しゅうじゃくも日毎にうすくなった。心のどこを探しても、滅失めっしつ以外のものが見出し難いここちになった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生涯にわたる傷魂しょうこんの深手——懺愧ざんき痛涙つうるい滅失めっしつのうめきを、このときの一せいにふり絞って、かれは、腰をぬかしてしまった。
この人間は、自己の社会的な地位から転落して、すべてに滅失めっしつした時に、仏陀ぶっだの救いとか、法悦の境というものがあることまで、見失ってしまったに違いない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に世の中のすべてのものに光がなくなって、元のような——いや今までにない滅失めっしつに心がとらわれた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あり得ぬことと嘆き沈んで、滅失めっしつに囚われてしまうような不覚者は侍女のなかにもいなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早くも噂の伝わった江戸の町々の人目に見まもられながら、芝の田村右京太夫の邸へと、真っ暗な滅失めっしつを、粛々しゅくしゅくと踏んで、かなしくも何処かの橋を、渡っている頃なのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は一つの滅失めっしつにぶつかった。それは今、自分が飯をもらっている蜂須賀小六にである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ、悪来と夏侯淵かこうえんに扶けられた曹操が、馬の鞍に抱えられて帰ってきたので、全軍の士気は墓場のように銷沈しょうちんしてしまい、滅失めっしつの色深い陣営は、旗さえ朝露重たげにうなだれていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)