湿布しっぷ)” の例文
旧字:濕布
カバード・コートを脱いで、そでをまくりあげると、酢酸をたらし込んだ冷たい水で、せっせと黒江氏の咽喉のど湿布しっぷしはじめた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうしてその前には姉のおきぬが、火鉢のふちひじをやりながら、今日は湿布しっぷを巻いていない、綺麗きれい丸髷まるまげの襟足をこちらへまともにあらわしていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
医者は更に、ひろ子が可なり危険な状態にある事、肺炎をおこしつつある事を注意し、いろいろ湿布しっぷの仕方などを私に説いて帰って行ったのでした。
途上の犯人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
流感りゅうかんらしいんですね。肺炎はいえんになるといけないから、いま湿布しっぷをしてやりました。」と、叔母おばさんが、こたえました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
くび湿布しっぷ繃帯ほうたいをして、着流しの伊達だてまきの上へ、の紋ちりめんの大きな帯上げだけをしょっている女は、掃き寄せを塵取ちりとりにとったりして働いていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その時彼女はうちの近況について何にも語らずに、「この頃は方々で風邪かぜ流行はやるから気をおつけ。お父さんも二三日にさんち前から咽喉のどが痛いって、湿布しっぷをしてお出でだよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういって葉子は畳の上で貞世の胸にあてる湿布しっぷを縫っている愛子のほうにも振り向いた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家へ帰っても寝るどころか、湿布しっぷだ水薬だと騒がなければなるまいと、心配であった。
「なあに、大したことはありませんよ。湿布しっぷしてあげましょう」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その途端に障子が明くと、くび湿布しっぷを巻いた姉のおきぬが、まだセルのコオトも脱がず、果物くだものの籠を下げてはいって来た。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐ医者が駆けつけて熱い辛子からし湿布しっぷをしてくれたので、ようやく命だけはとりとめ、肺炎にもならずにすんだが、ひどい疲労と高熱で意識不明のまま昏々と眠りつづけ、その眠りのうちに
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
医者は芥子からしを局部へる事と、足を湿布しっぷで温める事と、それから頭を氷で冷す事とを、応急手段として宗助に注意した。そうして自分で芥子をいて、御米の肩からくびの根へ貼りつけてくれた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)