わたる)” の例文
平ノ忠盛の長男平太清盛へいたきよもり(二十歳、後の太政入道)。遠藤盛遠(二十一歳、後の文覚上人)。源ノわたる(二十五歳、袈裟けさ御前の良人)。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれわたるを殺さないとすれば、よし袈裟けさ自身は手を下さないにしても、必ず、己はこの女に殺されるだろう。そのくらいなら己の方で渡を
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みなもとわたるは、大きな発見でもしたように、くり返していっていた。——さっきから、馬場の埓内らちうちへ、眼もはなたずに。
だからわたるは己にとって、恋のかたきとは云いながら、憎くもなければ、恨めしくもない。いや、むしろ、己はあの男に同情していると云っても、よいくらいだ。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたるを殺そうではないか。」——己があの女の耳に口をつけて、こうささやいた時の事を考えると、我ながら気が違っていたのかとさえ疑われる。しかし己は、そう囁いた。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この苦患くげんを救いたもうもの、君をおいて、あらじを、あな、つれなき君かな。なんとて、わたるが妻にはなり給える。かりのおんなさけたりとも、一夜ひとよ、まくらをわし給えや。
そう思いましたが、実は、同僚のみなもとわたるが、どうしても、青毛の調教を、自分に譲ってくれといいます。五月の加茂の当日には、あの青毛を出して、十列とつらの競馬に参加したい。
また、袈裟けさ良人おっとわたるは、人のむ凶相の名馬を飼って、仁和寺にんなじ行幸みゆき競馬に一瞬の功を夢み、ひとり則清は、沈吟黙想、まじわりつつ、心、交わりきれぬ孤友だった——。(二五・五・七)
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)