洟垂はなた)” の例文
黍畑きびばたけ、桑畑などから、それを見つけて、附近の部落の腕白者や、洟垂はなたれを背負った老婆としよりなどが、いなごのようにぞろぞろ出て来て
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒い土蔵見たいな感じの壁が、半ばはげ落ちて、そのすぐ前を、ふたのない泥溝どぶが、変な臭気を発散して流れている。そこへ汚い洟垂はなたれ小僧が立並んで、看板を見上げている。まあそういった景色だ。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洟垂はなたれの男の子が答えます。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
八方から口汚い罵倒ばとう暴風あらしだった。百姓も云う、町人もわめく、女や洟垂はなたらしの子供までが、面罵めんばを浴びせかけて、云わして置けばりがない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この母は、百姓のはらから百石扶持の侍を生んだことも、さして誇りとはしていないらしく、幾歳いくつになっても、洟垂はなたらし時代のまま、四郎べ、四郎べで通している。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沢庵の姿を仰ぐと、以前の洟垂はなたれ小僧に返って、彼はただ恐れ入るばかりな容子だった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内職もやる、百姓仕事もする、それでもなお喰えないとみえ、非番の日は、腫物できものだらけな子どもを負い、洟垂はなたらしの手をひいて、諸家の弓直しや具足の手入れなどさせて貰ってのりをしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまえは、おれのいない後では、小さい兄弟中の、かしらだぞと。——あの頃はまだおまえも、十二、三の洟垂はなたらしだったが、もう、おれに次ぐ、いい若人。何を泣く。泣き面など、見せてくれるな
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに反して、お杉は、幼少の時から見ている悪戯いたずら小僧のたけぞうがどうしても頭から離れない。しらくも頭で洟垂はなたれの畸形児きけいじみたいに手脚ばかりヒョロ長かった嬰児あかごの時から知っている武蔵である。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——聞えたか。小猿を連れた洟垂はなたれ武士、ふなべりへ出ろ、舷へ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ぬしゃあ、剣術はうめえが、釣は洟垂はなたれ頃から下手へたずら』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)