法悦ほうえつ)” の例文
僧二 法悦ほうえつという事について話そうと考えています。仏の救いを信ずるものの感ずる喜びですな、経にいわゆる踴躍歓喜ゆやくかんぎの情ですな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
教育機関の立派になったお蔭でわれわれは学問することの法悦ほうえつを奪われたというと同じ逆説的な申分ではあるが、いくらかそういう感じがなくはないであろう。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真実のうたとはそこに生れるのだ。その虚無の場を不安と観ずるべからず、法悦ほうえつの境と信ずべし、だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私の心は今あなた方のゆりのようにやさしい清らかな愛と、燃えるごとき真心とのさなかに抱かれ、ひたって、今死んでも悔やむところもないほどの法悦ほうえつに酔っています。
おにになった彼女から、したたかピシャリと指をぶたれたとき、なんという法悦ほうえつをわたしは感じたことだろう! そのあとで、わざとわたしがポカンとした振りをしていると
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
参禅の三摩地を味い、諷経念誦ねんじゅ法悦ほうえつを知っていたので、和尚の遷化せんげして後も、団九郎は閑山寺を去らなかった。五蘊ごうん覊絆きはんを厭悪し、すでに一念解脱げだつ発心ほっしんしていたのである。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なにもかもが、明朗に、こうして今の一つの生活のうちに解けて、生に法悦ほうえつを感じられる功力くりきは、あの六角堂の参籠さんろうや、安居院あごいの聖覚法印のみちびきのほかに、まさしくこのひと功力くりきもある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、大勢おおぜいの友達のうちには暗いような物思わしげな顔をしている者があるのを、不思議に思うくらいでありました。わたしは祈祷きとうにその一夜を過ごして、まったく法悦ほうえつの状態にあったのです。
「まだ法悦ほうえつきょうに入るほど進んでいないけれど」
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は生れて始めての安楽な生活に法悦ほうえつを覚えた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは法悦ほうえつに燃えていたからであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
法悦ほうえつがあっても、なくても、私らの心のありさまの変化にはかかわりなしに救いは確立しているのでございますね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それは甘美かんびな苦痛をなして、わたしの五体に宿っていたが、やがて法悦ほうえつはついにせきを切って、わたしはおどり上がったり、わめき立てたりした。全く、わたしはまだほんの赤ん坊だったのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
また仏様の兆載永劫ちょうさいようごうの御苦労を思えば、感謝の念と衆生しゅじょうを哀れむ愛とが常に胸にあふれていなくてはなりませんからな。法悦ほうえつのないのは信心の獲得ぎゃくとくできていないあかしだと思います。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)