永久とこしえ)” の例文
宮本二郎は言うまでもなく、貴嬢きみもわれもこの悲しき、あさましき春の永久とこしえにゆきてまたかえり来たらぬを願うぞうたてき。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
天は永久とこしえに高く、地は永久に低し、しかも天の誇りを聞かず、地の小言つぶやきをしも聞かざるに。人ばかりは、束の間の、いふにも足らぬ差別を争ひ、何とて喧々囂々けんけんがうがうたる。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
南のは東覚院とうがくいん宝性寺ほうしょうじ安穏寺あんのんじ、北のは——寺、——寺、東にも、西にも、おのがじし然も申合わせた様に、我君ねむりませ、永久とこしえに眠りませ、と哀音長く鳴り連れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
折柄、墓石の下に永久とこしえの安い眠りについている霊を驚かすように一台の大型自動車がけたゝましい爆音を上げて、この大崎町の共同墓地を目がけて、驀地まっしぐらに駆けつけて来た。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「神の御名みなによりて命ずる。永久とこしえに神の清き愛児まなごたるべき処女おとめよ。腰に帯して立て」
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
臨終の喘咽あえぎ聞ゆる永久とこしえの喪のへや
運命の力は強し、君とこの世にまた相見ることなかるべきやを思うだに、この心破れんとす、いわんや永久とこしえの別れをや。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一年ひととせと二月はあだに過ぎざりき、ただ貴嬢きみにはあまり早く来たり、われにはおそく来たれり、貴嬢きみ永久とこしえに来たらざるをこいねがい、われは一日も早かれとまちぬ
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
翁のゆきし後、火はくれないの光を放ちて、寂寞じゃくばくたる夜の闇のうちにおぼつかなく燃えたり。夜更け、潮みち、童らがたきし火も旅の翁が足跡も永久とこしえの波に消されぬ。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
否、われは永久とこしえの別れを信ぜざるなり。愛の命はこの信仰のみ、われらが恋の望みは実にここにあり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ややありて『わが夜もふけぬ。君今は静かに休みておわさん。わが心かなし。人々みななつかし。わけても君恋し。ああたれか永久とこしえの別れというや。否、否、否……。』
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今日は終日霧たちこめて野や林や永久とこしえの夢に入りたらんごとく。午後犬を伴うて散歩す。林に入り黙坐す。犬眠る。水流林より出でて林に入る、落葉を浮かべて流る。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
宮本二郎は永久を契りし貴嬢きみ千葉富子ちばとみこそむかれ、われは十年の友宮本二郎と海陸、幾久しく別れてまたいつあうべきやを知らず、かくてこの二人ふたりが楽しき春は永久とこしえにゆきたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
恋の曲、懐旧の情、流転の哀しみ、うたてやその底に永久とこしえの恨みをこめているではないか。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)