歔欷きよき)” の例文
そのちゝと子の心と心とが歔欷きよきの中にぴつたり抱き合ふ瞬間しゆんかん作者さくしやの筆には、恐ろしい程眞實しんじつあい發露はつろするどゑがき出してゐるではありませんか。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
若し卿等にして予が児女の情あるをわらはずんば、予は居留地の空なる半輪の月を仰ぎて、ひそかに従妹明子の幸福を神に祈り、感極つて歔欷きよきせしを語るも善し。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
派手な水色のパラソルに日影が照つたり、出帆の時刻が近づいて行くにつれて、談話が囁きに、囁きが歔欷きよきに、次第に別離の光景をそのあたりに描き出すやうになつて行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「何卒、篠田さん、御赦し下さいまし——貴所あなたの、御災難の原因もとはと申せば、——私が貴所を御慕ひ申したからで御座います——」梅子は畳に伏せり、歔欷きよき、時にかすかに聞ゆ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ちん歔欷きよきセサルハナシ——大體かういふ意味であつた。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
歔欷きよきのこゑしつに滿ちたり
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
しかも涙はますます眼に溢れて来る——乙州は遂に両手を膝の上についた儘、思はず嗚咽をえつの声を発してしまつた。が、この時歔欷きよきするらしいけはひを洩らしたのは、独り乙州ばかりではない。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はかほおほうて歔欷きよきしたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
歔欷きよきの声しつに満ちたり
池のほとりに柿の木あり (新字旧仮名) / 三好達治(著)
老婆は歔欷きよきして言語ことばなし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)